朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。

ゆっくりとまぶたを開けると、昨日の夜のことが静かに蘇る。


あの絵。

あの光。

そして――忘れかけていた“ケーキを作る”という記憶。


胸の奥が、まだ少しだけ温かい。

けれど同時に、どこか落ち着かない。

まるで夢の続きが、現実の端にまだ残っているみたいだった。


ぼんやりとした頭でスマホを見ると、未読のメッセージがひとつ光っていた。


『真白ー!この前話してた新しいカフェ、行かない?』


彩花からだった。

文末には、コーヒーカップとケーキの絵文字。


(……ケーキ)


その文字を見た瞬間、胸がかすかにざわついた。

昨日の夜、あの絵を見ながら思い出した香りと感触が、また蘇る。


――オーブンの前で見つめていた、生地がふくらんでいく光景。


返信の文字を打とうとして、指が止まる。


「……行こうかな」


小さく呟いた声が、自分でも驚くほど自然だった。