――休日の朝。


窓の外は、薄く曇っていた。

雨が降るわけでも、晴れるわけでもない――

まるで、今日のわたしの気持ちみたいな空だった。


テーブルの上には、一枚のチケットが置かれている。

“神城煌 個展 ― 透明な記憶 ―”

銀の文字が、淡い光を受けて微かに光った。


(……行くって、言ってないのに)


ふと口の中で呟いて、苦笑した。

あのとき、神城さんは“いつかでいい”と言っていた。


でも、あの“いつか”が今日になった理由は――

自分でも、よくわからなかった。


ただ、このまま行かないでいる方が、きっと後悔する気がしたのだ。


支度を終え、鏡の前で軽く髪を整える。

どんな顔で会えばいいんだろう。


気分を変えるために、スマホを手に取ってみる。

すると、“スイーツ好きが歌”さんが、こんな投稿をしているのが目に入った。


“白いスポンジの丘で、雪に魅せられたバラ”

ショートケーキを食べた感想らしいけれど、本当に面白い表現をする人……。

わたしは、なぜかこの文章に背中を押されたような気がして立ち上がった。