「もしかして、それ頂いたの?」
「えっ……あ、はい。その……さっき神城さんが」
「神城さん?」
「よく来るお客さん、いたじゃないですか。背の高い、黒いコートの……」
「ああ、あの人!」
芙美子さんの目がまんまるになる。
「まさか、あの人が神城煌さんだったなんて……! どうりで雰囲気があると思ったのよ!」
「……やっぱり、有名なんですね」
「有名どころじゃないわよ。あの人の作品、何年か前に見たことあるけど、本当に綺麗で……。真白ちゃん、絶対行くべきよ!」
勢いのある言葉に、思わず笑ってしまう。
「いや、でも……お客さんとして少し話しただけですし」
「だからこそ、行くのよ。あんな素敵な人がわざわざ渡してくれたのよ?運命みたいじゃない」
「運命なんて……」
苦笑しながら、手の中のチケットを見つめる。
白地の紙が、光を受けてかすかに輝いた。
(……行くべき、なのかな)
胸の奥で、小さな声が揺れた。
外では夕方の光が、店のショーケースを静かに照らしている。
その反射の中に、銀色の文字がそっときらめいた――。



