背後でスケッチブックを閉じる音がした。
「ねえ、まだ? いい香りすぎて、集中できないんだけど」
「あと少し。もう、絵を描いててよ」
「無理。真白に構ってもらえなすぎて、絵に集中できない」
「……もう、子どもみたい」
そう言いながらも、頬が緩む。
煌はソファに座っていたはずなのに、気づけばすぐ後ろまで来ていた。
わたしの肩越しにオーブンを覗き込み、息が首筋にかかる。
「ほら、やっぱり焼き色がきれい。真白って、すごいな」
「そんな近くで言わないで……」
「やだね。だって、全然嫌そうじゃないし」
頬が熱くなる。
オーブンの前でケーキを見守るなんて、ただの日常のはずなのに――
煌と一緒だと、どうしてこうも特別に感じてしまうんだろう。
「ほら、できたよ」
皿に乗せて差し出すと、煌の目が少し輝いた。
フォークを取って、そっとひと口。



