イベントから数日が経った。

あの喧騒が夢だったみたいに、店もわたしも、少し落ち着きを取り戻していた。


今日は久しぶりの休日。

朝からゆっくり過ごそうと思っていたのに――


スマホが震えた。


『今、絵を描き終わった。真白は何してる?』


画面に映る文字に、思わず口元が緩む。


(……まただ)


ここ数日、煌からの連絡はやけに多い。

“おはよう”から始まって、“今描いてる絵、少しだけ見せたい”とか、“寝た?”まで。

まるで……恋人みたいだと思う。


返信しようと指を動かした瞬間、すぐにもう一通。


『よかったら、今日来ませんか? おいしいコーヒー買ったんだ』


(……もう、誘い方がずるい)


胸の奥で、何かが小さく跳ねた。

考えるより先に、気づけば“行く”と打っていた。