「大丈夫。僕がいる」
ただそれだけ。
それだけで、胸の奥に絡みついていた糸が、ひとつほどけた。
自動ドアが開くたび、外気がさっと頬を撫でる。
ポケットの中で、彼の手の温度が離れない。
(――平気。今度は、逃げない)
足並みを揃えて歩き出すと、ガラス越しの会場の灯りが、ゆっくり遠ざかっていった。
イベント前夜。
会場には、搬入を終える出店者たちの足音と段ボールを開ける音が響いていた。
広いホールの空気には、緊張とわずかな熱気が混じっている。
「……よし、これで全部かな」
テーブルクロスを整え、ケーキスタンドの位置を確認する。
そのとき、背後から軽い声がした。
「真白、もう少し左のほうが光がきれいに当たるかも」
振り向くと、煌が作業用の腕章をつけて立っていた。
公式スタッフではないのに、どこからか台車を借りて、さっきから運搬を手伝ってくれている。



