「遅かったから、心配で。……どうした? 顔」
「……説明、長引いただけ」
「嘘ですね」
即答だった。
ふっと近づいて、手に持った資料の角をそっと整える。
指先が、震えているのを拾われた。
「中で、何かあった?」
しばらく言葉が出なかった。
代わりに、吐く息が白くなって流れた。
「……“あの人”と会ったの。それで、ちょっと、懐かしい“話”を」
「なるほど」
煌の目から、やわらかさが一度だけ消える。
次の瞬間にはもう、いつもの穏やかさで戻ってきていた。
「寒い。――手、貸して」
そう言って、わたしの片手を自分のコートのポケットの中へ導く。
不意に触れた体温が、指先の震えを静かに吸っていく。
「ここで深呼吸して、コーヒー飲みに行こう」
「……はい」
「それと」
人の行き交う出入口の脇で、煌はわたしの前髪を指先でそっと払う。
いつもの、さりげない仕草。



