溺れるほど甘い、でも狂った溺愛



囁く声が、軽く甘い。

けれど舌触りは冷たかった。


「今度は、ポスターじゃなくて“味”で目立てるといいね。……そうだ、当日は調味料、気をつけて」


わざとらしく資料の〈アレルゲン/表示〉の欄を指で叩く。


「塩と砂糖、間違えると、取り返しがつかないから」


喉の奥が、きゅっと縮む音がした気がした。

でも、足は止めない。視線を落とし、淡々と返す。


「ご忠告ありがとうございます。準備、頑張ってください」

「あなたもね。――真白さん」


名前を呼ぶ時だけ、やわらかく。

背中に視線の温度だけを残して、彼女は人混みに消えた。


自動ドアが開く。

外の空気は思っていたより冷たくて、胸の内側に残った熱だけがやけに生々しい。


「真白」


呼ばれて顔を上げる。

入口横の柱にもたれて、煌が立っていた。

ポケットに手を入れたまま、真っ直ぐにこちらを見る。