溺れるほど甘い、でも狂った溺愛



(――あの人)


視線を上げると、白いコックコート。整えられた笑顔。

目が合った気がした瞬間、向こうの口角が、ほんのわずかに上がった。


説明は淡々と進む。

担当者が「アレルゲン表示は必ず」「砂糖・塩などの小分け容器には明記を」と強調したとき、

斜め前から、意図的にゆっくりした視線がこちらへ流れてきた。


(大丈夫。今はただ、必要なことを聞けばいい)


メモを取り終えて散会となった。

人の流れが廊下へ溢れ出し、名刺の交換や立ち話がそこらで始まる。

わたしは資料をまとめ、静かに席を立った。


「――久しぶり」


出口手前、いつの間にか横に立っていた彼女が、軽く首を傾げる。

同じ、あの笑顔だった。


「まだ、続けてたんだね。……ケーキ作り」

「ええ。おかげさまで」

「前の商店街のイベント、見たよ。ポスター、素敵だった。目立ってたもの」