溺れるほど甘い、でも狂った溺愛



イベント本番2週間前になると、出店者の代表者を集めた事前説明会が開かれる。


――説明会の会場は、薄い蛍光灯の光で白く満ちていた。


長机が横一列に並び、前方のスクリーンには〈搬入スケジュール/電源容量/衛生チェック〉の文字。

スタッフが資料の束を配って回るたび、紙の擦れる音がさざめきのように広がる。


(落ち着いて、聞けば大丈夫)


配られた資料にメモを取りながら、わたしは深く息を吸った。

搬入時間、コンセントの位置、保冷ケースの申請――必要な項目を順に書き込んでいく。


「では、出店者の皆さま、簡単に自己紹介をお願いします」


順に挙がる店名。県外の有名店の名前がいくつか続き、会場の空気がわずかにざわめく。

隣の席の人が「緊張するね」と小声で笑った、その時――


「……パティスリー……です。よろしくお願いします」


あの声音が、空気の層を裂くみたいに耳に届いた。

身体が先に反応した。背筋が固まり、ペン先が紙に小さく音を立てる。