「それで? その人、何者だったの?」


カフェのテーブル越しに、彩花(あやか)が身を乗り出してきた。

わたしはカップの中のカフェラテを見つめたまま、曖昧に首を傾げる。


「さあ……わかんない。結局名前しか知らないし」

「名前?」

「神城……なんとか、って言ってた」

「なんとかって。あんた、ほんとに聞く気なかったでしょ」


彩花は呆れたように笑って、ストローをくるくる回した。

彼女とは高校時代からの付き合いで、こうして時々仕事帰りに会う。

話すたびに、彼女の明るさに救われているんだ。


「でも、なんかさ。変な人だったんだよ」


わたしは、指先でマグカップの取っ手をなぞりながら呟いた。


「店に来て、いきなり“やっと見つけた”とか言うの。それで、わたしが昔イベントで作ったケーキの話をしだして……最後は、寒い中で待ってて、送るって言われたの」

「……それ、完全にアウトでしょ」


彩花の声が一段低くなった。

わたしは思わず、苦笑いを浮かべる。