「……今日、次のイベントの出店リストを見たんです」
「そうですか」
「そこに……あのお店の名前があって……。煌も知ってるでしょう?個展の帰りに見かけた、あのケーキ屋さん。大したことじゃないんですけど、ちょっと、驚いてしまって」
煌は静かに立ち上がり、テーブルの向かいに座った。
わたしの手の近くに、自分の手をそっと置く。
「驚いたのは、嫌な理由ですか?」
少し考えて、ゆっくり頷いた。
「……そう、ですね。わたしにとっては」
煌はしばらく黙っていた。
けれど、その沈黙が不思議と怖くなかった。
やがて、彼は柔らかく口を開いた。
「思い出したくないなら、話さなくていい。でも、話して楽になるなら僕に話してください」
「……煌」
名前を呼んだ声が、わずかに震えた。
煌は微笑んで、わたしの手にそっと触れた。
「聞いてくれますか?わたしの“過去”を」
「ええ、もちろん」



