頭の奥で、遠い声が蘇る。
“天才ってもてはやされてるけど、大したことないのね”
“そんな初歩的なミスをするなんて、ありえない”
“もうパティシエールなんて、やめちゃえば?”
小さな記憶の断片が、心の奥に沈んでいた痛みを呼び起こす。
(……出るんだ、あの店も)
視界の端が少し滲む。
けれど、すぐに顔を上げた。
「……ありがとうございます、芙美子さん。確認しておきます」
なんとか声を整えると、芙美子さんはにこやかに頷いて厨房へ戻っていった。
静まり返った店内に、時計の音だけが響く。
(大丈夫。もう、過去のこと……)
そう言い聞かせても、胸の奥で何かが微かに疼く。
その夜。
アトリエのドアを開けると、煌がいつものように絵筆を持っていた。
けれど、彼はすぐにこちらを見て、眉を寄せる。
「真白。……何か、あった?」
「え?」
「いつもの、感じが違ったから」
その一言に、息が詰まった。
笑ってごまかそうとしたが、言葉が出てこない。



