昼下がりの店内は、いつもよりも賑やかだった。
窓の外では、春の光がゆらめき、道を行き交う人たちの声が風に混じっている。
厨房では、焼きたてのフィナンシェがオーブンから出されたばかりだった。
甘い香りがゆっくりと店内に広がっていく。
「真白ちゃん、ちょっといい?」
カウンターの向こうで、芙美子さんが声をかけてきた。
手には商店街の組合から届いたチラシを持っている。
「またイベントですか?」
「そうそう。来月、駅前のホールで“大規模なスイーツフェスタ”があるらしいの。商店街の枠で、うちにも声がかかったのよ」
「スイーツフェスタ……」
聞き慣れたようで、でもどこか胸の奥がざわつく響きだった。
「去年よりもずっと大きな規模なんですって。県外からも有名なパティスリーが来るらしいわ」
「有名店も、ですか」
芙美子さんはにこにこと笑いながらチラシを広げた。
そこには色とりどりのケーキの写真と、“全国から注目のパティシエが集結”という文字が踊っている。



