部屋の灯りを落とすと、壁に貼られたポスターが淡い光を受けて浮かび上がった。
それは、商店街のイベントのときに神城さんが描いてくれたもの。
白い皿の上で金色に輝くケーキが、春の光に包まれている。
何度見ても、その色は現実のケーキよりも柔らかくて、
まるで“記憶の中の味”を閉じ込めたようだった。
ポスターの端をそっとなぞる。
少しだけ紙が波打っているのは、イベントが終わったあと、
慌てて抱きしめるように丸めて持ち帰ったせいだ。
(……この光、好き)
自分の作ったお菓子なのに、そこに映っているのは、“誰かに見てもらえた味”の記憶。
あの日から、部屋に貼ったこの絵を眺めるのが習慣になった。
朝、仕事に行く前に一度見上げて、
夜、疲れて帰ってきたら、同じように目を合わせる。
それだけで、ほんの少しだけ心が整う気がした。
――まるで、お守りみたいに。
(この絵を見ると、“大丈夫”って思える)
神城さんが描いてくれた色の中には、自分が忘れかけていた“好き”や“自信”がちゃんと残っている気がした。



