「市井の生活を知ることも、皇太子妃として重要なのでは?」

私は幼くしてキルステンとの婚約が決まった侯爵令嬢。妃教育ばかりで、市井の生活が実際どのようなものかは知らない。痛いところを突かれた気になっていると、目の前の仮面をつけた男女が口付けを交わすのが見えた。

「アルマ⋯⋯私、見学は終わりましたので、ここで失礼しようかと⋯⋯」

アルマに話しかけると、彼女は真っ黒な仮面を付けた金髪の男の手を取ろうとしていた。

彼女は私を一瞥するとふっと口の端を上げ、私の耳元に唇を寄せてゆっくりと囁いてくる。