妻、猫になり逃走中! 至急確保し溺愛せよ!

ただ、離れても私はキルステンをずっと好きでいるし、応援する。彼を「好き」という気持ちをあまりに長く持ち過ぎて、自分ではうまく消せそうにない。

フェリクスが私に少しくたびれた白いハンカチを渡してくる。

「涙を流すなんて恥ずかしいわ」
「アルベール王国には平民として当分は潜伏する。平民は道端で泣き喚いても許されるぞ」
「それって、素敵ね」
私はハンカチを見ていて、ふと刺繍に気がついた。フェリクスのイニシャルとダルトワ伯爵家の家門の剣の紋章。これは、私が妃教育で刺繍の練習をしていた時に作ったハンカチだ。私が妃教育をはじめた八歳の時に作った見窄らしい処女作。
(刺繍、めちゃくちゃ下手⋯⋯)