「せーのっ」

「「湊都くん」」


───好きな人ができた。
詩歩(しほ)からの嬉しい知らせに、「私も!」と返したのは瞬時だった。

ふたりして「恋する乙女じゃん」と笑い合って、好きな人を同時に言おうと提案して。


…そして、好きな人が被った。

「え、」

絞り出すような、そんなガサガサの声だった。

詩歩は「え、あの…岸、湊都くん?」と確認されるので、私は「うん」と、先程の雰囲気は飛んで行ったように低く呟いた。


「わたし、嫌だよ!叶芽が恋のライバルなんて…そんな…」

わかるよ、痛いほど。

お互い純真無垢な瞳で“親友”と言い合える仲、それが崩れることを考えたら。


「わたし、諦める。だから、」

詩歩は、友情と恋愛、“友情”を取った。
男は一瞬、女は一生。


「私も。湊都くんと詩歩なら、詩歩に決まってる」

小指を絡めて、詩歩は「わたしは叶芽とずっといたいもん」と柔らかく笑った。