「姉ちゃん、ラムネ食べようよ!」
あれは、まだ俺がガキだった頃。
「溶けそうなほど暑い」という表現がとても合うあの猛暑の空の下、姉ちゃんとラムネを飲んでいた。
かつん、と空色の瓶を、小気味のいい音と共に合わせる。
力強くビー玉を押し込む。
「わ、っ」
ビー玉を押し込んだ瞬間、つい驚いて手を離してしまう。
呆気なく吹きこぼれるラムネに「姉ちゃんティッシュ!」と慌てれば、けらけらと明るい笑いが響く。
「あんた本当下手だよね、もう…。いいよ、あたしのラムネ、ちょっとあげる」
姉ちゃんはいつも、決まって半分こぼす俺に呆れることなく、自分のラムネを注いでくれた。
「あたし、来年から受験生か…」
ぼそりと呟く姉ちゃんの横顔は、お世辞抜きに美しかった。
艶のある髪も、爪の先まで細くて白いその手も。
底に沈んでる、透明なビー玉みたいな綺麗で。
暑い夏も、しゅわしゅわした甘ったるいソーダで乗り切れる気がした。
…姉ちゃんと一緒にラムネを飲めたのは、これが最後だった。



