一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは

「そうかなあ。そうだったら、熱を感じられていいんだけど。吉見さんはすべてにおいて熱を感じない」

 憤然と言うと、里緒がくすくす笑いながら桜海老と筍の豆乳カレーを口に入れる。そっちも美味しそう。
 なんて思っていると「食べる?」と茶目っ気たっぷりに尋ねられたので、ありがたくひと口もらう。
 これもいいなぁ。まろやかで、舌がとろける。
 里緒は今となっては家族以外で唯一、私が気兼ねなく食事をできる相手でもある。
 あの暗黒の中学生時代、里緒だけが笑わずにずっと私のそばにいてくれた。
 のんびり屋の彼女は、今は吉祥寺のハーブとアロマテラピーの専門店で働いている。
 リネン素材のふんわりしたワンピースが、彼女の雰囲気によく似合っていると思う。
 彼女の前では、あいがけカレーだろうが大盛りライスだろうが、果てはトッピング全部のせだろうが、なんでもできる。

「入社して二ヶ月になるけど、歓迎会以外の飲み会に参加したこともないし。打ち合わせに時間を浪費したくないから、要点だけまとめた資料を出せっていうし」

 あれから何度かクライアントとの打ち合わせもしたけれど、喋るのはいつも私ばかりだ。
 吉見さんはほとんど口出ししない。
 かと思うと、急に意見しては、決まりかけていた方向性をひっくり返してくる。
 その意見がどれも的を射ているだけに、打ち合わせのたびに悔しい思いをしてもいて。
 なんか、すっきりしない。

「でも、ひよちゃんが食いしん坊だってことは、黙ってくれてるんだよね? いいひとじゃない」
「歓迎会では言ったからね、彼。口止めしてたのに」

 思い出すにつけ、頭に血が昇る。
 合いがけはどちらも美味しいけれど、今日はココナッツカレーだけにしておいたほうがよかったかもしれない。
 スパイスの効いたキーマカレーのおかげで、事務所に戻っても血気盛んなままになりそうだ。