次の日、申し訳なさそうな顔をした桂香が、恋達の教室にやって来た。
「……黒王子」
「その呼び方辞めてください。石巻先輩が来るなんて珍しい。どうしたんですか?」
「……狐」
桂香は言い淀んでから言った。
「あ、キュンだったら見つかりましたよ。昨日。自分で帰って来たんです。」
「……」
桂香は滅多に表情を変えなかったが、眼鏡の向こうのその顔はちょっとホッとして見えた。
「……それだけ」
「あ、はい。そういや昨日は家で預かってくれてたって。ありがとうございます」
「……家?」
「あ、えっと、学校で」
宗介が慌てて言い足すと、桂香は納得した顔で教室を出ていった。
「ったく。学校なんかで変身するから。心配させて。もう二度とするなよ。」
恋の席に来た宗介が言った。
「石巻先輩の家に行ってたんだ。あの人謎が多いんだよね。どうだった?。どんな雰囲気?」
斜め前の席から、振り返っていた美風が聞いた。
「うーん、分かんないけど。」
恋は桂香の家を思い出して言った。
空のケージに、ペットベッド。キャットフード。
「多分動物が好きな人なんじゃないかな?」
「へえ」
「とにかく、お前は学校で狐なんかにならないの。いい教訓だよ。石巻先輩なんかに捕まって。嫌な目にあったろ。ざまあない。」
「……」
「協定。今度やったら、樋山と僕でこう。痛いげんこ食って泣くよ。良いね?。ったく」
「ダブルげんこだよ。協定済みの三角関係からのお仕置き。食いたくないでしょ?。今度からもう学校で狐になっちゃ駄目だよ?。気をつけなね。」
パン!と拳をてのひらに当てて脅す宗介を見て、恋は小さくため息をついたのだった。

