桂香は狐を離さなかった。
民家の並びに入って、そのうちの1軒のドアを開けると、桂香は玄関で抱いていた狐を降ろした。
「……」
狐が玄関から離れないと見ると、桂香はまた狐を抱き上げた。
暗いリビングの電気をパチリとつけると、桂香は部屋の隅にあった空のケージに恋を連れて行った。
水とキャットフードとペットベッドを持ってくると、桂香はケージに配置した。
桂香はケージの前にしゃがみ込んで、
「……キュン」
と呟いて、恋の首元を撫でた。
ケージから恋が見ていると、桂香はソファの上に寝そべって雑誌を読み始めた。
なぜ猫の居ない家にキャットフードがあるのかというと、桂香が野良猫に優しいからだったが、ひとまずと恋はキャットフードを食べた。
ホットコーヒーを作って飲みながら、桂香が一人切りで狐を見ている。
「……キュン」
桂香がまた小さな声で呼んだ。
温かいホットコーヒーの香り。
桂香と二人の部屋は、ちょっと不思議な空間だった。

