そこへ通りすがったのは宗介だった。

 宗介は今日恋と美風が商店街に出かけるのを知って、恋を捕まえようとウロウロしていたのだ。


「樋山」


 宗介は美風に目止めると腕の中の小狐を睨んだ。


「恋、どういうつもり?。僕に内緒で樋山と出かけるなんて。この裏切り者。何回言ってもすぐこれだ。今日は迎えにわざわざ来てやったんだから、ほら、さっさとこっちに来る。恋、良いね?。」

「今日は新田さんのトラウマを克服しに来たんだ。上野には関係ない。」

「トラウマって?。たかが烏だろ。大したトラウマじゃない。確かに怪我はしてたけどね。恋、さっさとこっち。ったく。約束破り。あーあ、樋山の前で狐になって、今日はこれから僕になんて言われるか楽しみだね。」

「上野は新田さんにきついんだよ。こんなに怖がって、怯えてるのに。ショックを受けて傷ついてるのに。泣くほどつらがってるのに、僕だったら絶対そんな風に言わない。」

「恋」


 宗介が言った。


「烏の事はあと。問題は、どうして今日お前が樋山と居るかって事。お前の彼氏は誰?。僕に悪いと思わなかったの?。どう申し開きするつもりだよ?。僕を怒らせるのが好きな訳じゃないよな?。」

「新田さんは僕とトラウマを治すレッスンをしてるんだ。悪い事はしてない。」

 言い返した美風を、宗介はギロリと睨んだ。

 
「樋山には聞いてないよ。れーん?」


 怒って居る時によくある事で、宗介がわざと甘い声を出して恋を呼んだ。
 
 
 恋は美風のお陰で、もう烏の事は怖くなくなっていた。

 しかし代わりに怒った宗介の事が倍もおっかなくて、恋は宗介に引っ剥がされるまで美風の胸で縮こまっていた。