放課後。
 恋が、黒板の時間割をメモ帳に書き写していると、教室の戸がガラガラと開いて、誰かが入ってきた。

 恋が振り向いて戸の方を見ると、教室に入ってきたのは律だった。
 東中の制服を着て、かばんを背負って立っている。

 数人のクラスメート達が、東中の白い上下の制服をジロジロ見ている。

 律が微笑んだ。




「恋!」

「律、どうしたの?」


 恋が聞くと、律は窓際の恋の席までやってきた。

 それから恋の隣の机に軽く腰掛けると、口を開いた。


「学校が早く終わったから、様子を見に来たんですよ。」

 律が腕組みをした。

「恋がどうしてるか。僕が居ないところで、上野さんといちゃいちゃしたりしてないか。今のところは大丈夫そうですね。」

「律がうちの中学に来るなんて珍しいね。」

「ええ。本当は僕も恋と同じ中学の方が良いんですけど。そしたら毎日会えるし。僕だけ違う中学でつまんないです。あっちは恋みたいな先輩居ないし。加納先輩達みたいな変な先輩なら居て賑やかは賑やかですけどね。」


 それから律は恋の耳元に口を寄せて、小声で、


「恋」


 と恋を呼んだ。


「狐になりませんか?。帰り道、2人で。どっか公園なんかで。」

「宗介に怒られるよ。」

「上野さんの言うことなんて聞いてたら、いつまで経っても狐になんかなれませんよ。僕たちあやかし狐は、本当はもっとしょっちゅう狐になるべきです。風を、自然を感じて。あやかしに生まれたんだから、あやかしらしく上野さん達からは距離を取るべきですよ。仲良くするのはタブーです。」


 それから、


「僕はここで狐になっても良いんですけどねえ。学校で狐になったら、センセーションだ、人気者になれる。……ま、今日のところは見合わせましょう。」


 と言った。


 恋は、帰り支度をして、律と連れ立って教室を出た。