美風は黃崎さんを振り切って上履きのまま恋を学校の中庭に連れ出した。


「ここなら話せる。新田さん、さっきは黃崎がごめんね。」

 
 2人が花壇の縁に座ると、美風が口を開いた。


「親衛隊って、結構過激なんだ。グッズ僕たちに見せびらかしたりはまだいい方、倒れたフリしてぶつかって来たり、壁新聞の写真盗んだり。」

「樋山くんは」

「僕は平気だけど、僕と仲良くしてる新田さんが。親衛隊の中には、新田さんをよく思ってない人多いから。」


 それから、


「上野のファンは遠巻きに見てるだけだけど、僕にファンって言ってくる女子達は寄ってくるんだ。迷惑だからその度にはっきり言ってるんだけど、全然分かってくれなくて。上野みたいにきついこと言って追っ払おうとすると、僕にそう言ってくる女子たちは泣くし。泣かれるとこっちが悪いみたいな気になって、結局、うやむやになっちゃってる。みんなが僕を好かないで嫌ってくれれば良いのに。」


 と言った。


「親衛隊……」

「親衛隊に何か言われたら、僕にすぐ言って。新聞部の人たちが言うには、直接行動にはなかなか出ないらしいけど。それもよくよく聞いたら女の子って思われたいからのぶりっ子なんだって。どうかしてるよ。僕のせいで新田さんが危ない目にあったらって思うと。」



 そう言ってから、美風は誰も居ないのを確認すると、恋の額の髪をかき上げて額に静かにキスをした。

 誰も居ない中庭に風が吹く。
 前に見えるグラウンドの遠くで、陸上部の部活動をする生徒たちがハードルをしているのが見えた。


「……樋山くん」
 
「新田さんが僕だけのものだったら良かった。」


 唇を離してそう呟いて、美風は足元を見た。