遠く、儚く。



エレベーターから降りようとしたが、まともに足を突くこともできず頭から倒れそうになった大嶌を新見が咄嗟に支える。

「大丈夫ですか?正直かなり酷いように見えますけど……」
「やっぱりそうですかね?ははは…情けない〜」
「やっぱりって…。この調子じゃ頭も打ってるかもしれないし…救急車呼んだ方がいいと思うんですけど…」
「いやいやそんな大袈裟な!私全然大丈夫です!」

「大丈夫じゃないよこれは…。一回傷見させてもらってもいいかな?顔も真っ青だし……」
「えっ…?」
「自分じゃ嫌だったらすぐに救急車呼ぶので、病院で診てもらいましょう。」
「あの…本当に大丈夫なんです…!」


新見は大丈夫大丈夫と連呼するのを宥め、傷だけ消毒しようと言い自宅に彼女を上げた。ソファーに座らせ靴を脱がせるがかなりの出血量だ。

新見が許可を取り彼女のズボンを捲り上げると、膝からすねの広範囲にわたって擦過傷と深い切創があり、足首は酷く腫れて変色している。とりあえず傷口に砂や小石が入り込んでる可能性を考えて念入りに洗浄しないと……。


「これかなり痛むけど…ちょっと我慢してね?」
「大丈夫です…すみませんお願いします。」


新見が心配して顔を覗き込むが、洗浄と消毒をする間彼女は顔も歪めずにじっと耐えていた。大人でもあまりの痛さに叫ぶ人もいるくらいなのに。。。

「…よし。よく我慢できました。それにしてもさっきから顔色悪いけど…寒い??ちょっと待っててね、毛布持ってくるから。」

新見が毛布を手に戻ってくると、彼女は先ほどとは比べものにならないくらいガクガクと震えていた。貧血とケガの衝撃で血圧が落ちてるんだろう。

「寒かったよね。ごめんごめん。でもちょっと診察したいんだけどいいかな?力抜いて楽にしててくださいね〜」
「はい。」


頭や背中、腹を打っていないかなどを簡単に触診をして調べるが、特に問題はなさそうだ。あとは膝や足首だが……腫れ具合からして少なくともXrayは撮らないといけないな。。。


「さすがにレントゲンは撮らないと診断できないと思うんだ。今から病院行くっていう形になると思うんだけど大丈夫ですか?」
「あ、はい…。すみませんご迷惑おかけしまして……」


ケガのせいなのか、それとも少し気が緩んだのか、しょんぼりとした成瀬に新見が優しく問いかける。


「いや全然気にしなくていいよ。でもどこで転んだの??」
「〇〇公園の横の坂です…」
「えっ…そんなところからどうやってここまで戻って来たの?はぁ…無理したんだな。。そういう時はすぐに救急車呼んでいいんだから、ね?」
「なんか恥ずかしくて…笑」


気持ちはわかるけど…と呟きながら、新見が作りたての温かいミルクココアを彼女の手に握らせる。

「これ飲んでちょっと体温まるといいけど。」
「すみません、ありがとうございます。いただきます。」
「それ全部飲んだら、タクシー呼ぶから一緒に病院行こう。」
「…分かりました。」
「よし。」

少し間を置いて成瀬が尋ねかける。
「…新見さんってお医者さん…なんですよね?」
「あ、うん。そうだね。」
「なるほど…。」

また少し間を置いて、「えっと…何科の先生なんですか?」と成瀬が尋ねる。
「総合診療科…って言って分かるかな?まぁいろんな病気の人を総合的に診るところだよ。」
「へぇ……。じゃあ新見先生…か。笑」


自身を見つめながら控え気味に笑う成瀬を見て、新見はまた心が弾む自分に気がついた。医師として彼女を心配する気持ちから彼女を自宅に連れて来たのだが、男女が同じ空間で時間を過ごしているという事実が新見を刺激する。