遠く、儚く。


(ニュース音声)「…夕方からは雪が降るでしょう。東京都内の積雪は2〜3センチと予想され、渋滞や交通の乱れなどが懸念されます。」

「新見先生聞きました〜?初雪から積もるらしいですよ!異常気象!ほんとにもぅ〜」
「らしいですね。帰宅時間にかかって問題にならないといいですけど…」
「本当ですよね〜ちょっと早く帰らせてくれたりしないのかなぁ〜」

ナースステーションでカルテを入力しながら、看護師たちのたわいない話に相槌を打つのも新見の日常だ。

笹木が横からどうでもいい情報を吹き込んでくる。
「そう言えば初雪を一緒に見るとその人との恋は実るっていう言い伝えがあるらしいで?」
「へぇ〜そうなんだ。」

「えーなにぃー新見思い当たる節あんの〜???」
「それならこの患者さんの症状との恋が実ってほしいわ。はぁ〜これ全然見当がつかないんだよな…。、」
「仕事人間まじつまんなーい。ラウンド行ってきまーす。」

初雪か…ただの迷信だろ、と鼻で笑う新見は、この初雪が成瀬との距離を一気に縮めることになるとは思いもしていなかった。



 夜9時ごろ病院を出ると案の定、辺り一面が真っ白になっていた。これは予想よりも積もりそうだな…。と考えながら電車に乗ろうと駅に向かう。しかし積雪の影響でダイヤに大きな遅延が生じているのと、バスなどもかなり混雑しており、どうにか自宅マンションに辿り着いた頃には夜の11時を回っていた。

新見が頭とダウンに積もった雪を手で振り払っていると、ふとエントランスの床に血が落ちていることに気づいた。血痕は奥に続いておりその跡を辿って中に入る。

「あれ……こんばんは。」
「こんばんは!」


驚いたような素振りで振り返ったその人物は紛れもなく、新見が待ち続けていた隣人の大嶌だった。


「お疲れ様です!すごい雪ですね〜こんなの何年ぶりだろ…へへ」
「怪我したんですか…?大丈夫ですか?」
「え?あ〜ちょっと自転車が雪で滑っちゃって!でも大丈夫です!大したことないので!」


黒っぽいズボンを履いてて出血箇所は確認できないけど、さっきの血痕から考えてかなり酷い怪我なはず…。怪我の状態をざっと把握するように眺めていた新見は、彼女が平気そうなフリをしつつも血の気が引いて真っ青になっていることに気づいた。


「結構出血してるみたいだけど…大丈夫?」
「あっもう全然!全然大丈夫です!笑 もうバカですよね〜こんなに雪降ってるのに自転車なんて笑笑 いけると思ったのになぁ…… へへ」

「ちゃんと消毒して手当しないと…自分でできそうですか?」
「はい!全然自分でできます!すみませんご心配おかけして…!」