遠く、儚く。

 翌日、合コンで半強制的に連絡先交換をさせられメッセージが立て続けに届く携帯を片手に、新見は深いため息をついていた。

礼儀上の返事はするが文面を考えるのも面倒だ。期待もさせないかといって気分を害しもしない適当な文章。もはやテンプレートのように使いまわして返信作業をしている。

それはそうと、彼女と挨拶を交わす機会がないまま3週間が過ぎようとしている。そろそろすれ違う頃なんじゃないだろうか…と考えながら、ふと正気に戻る。

ー 明日は命日だったな………

 新見には大学の頃から付き合っていた彼女・香純がいた。同じ医学部出身で彼女は産婦人科志望だった。5年間一緒に勉強し一緒に働いたが、彼女は癌で突然この世を去った。本当にあっという間のことで、当時まだ研修医だった新見は茫然としたまま、何もできず彼女を送ることになった。

ー 香純のことを思い出す頻度も少なくなってきたな……
怒ってないかな…。悔しいだろうな……。
墓参りの準備しないとな。待ってろよ。今年も会いにいくからな。


 新見は翌日墓参りに行き、そこで香純の両親とも再会した。香純の両親も医師であり、香純が立派な医師になることを心から応援していた。香純を亡くした後も頻繁に連絡を取り合っていたが、時間が経つにつれ接点も少なくなってきていたところだった。

近況報告を済ませ、新見が「香純が生きていたら今頃…」と言いかけた時、香純の母がやんわりと制止した。

「樹くん。香純が生きていたらっていうのはもうやめましょ?」
「え……あ…なんかすみません。」
「謝らないで。」
「香純が亡くなってもう6年だ…。私たちは医師でありながら娘の病に気づけなかったことに苛まれながら、たくさん苦しんだ。君を恨んでしまったこともある。でもね、娘の死を通して医師として、人として多くのことを学んだよ。」
「ええ…そうね。樹くん。ずっと言おうと思ってて何年も言えなかったこと、今日やっと言えるわ。これからは香純のお墓参りには来ないでほしいの。」
「え……」
「これも私たちのわがままだって分かってる。でも私たちもう前に進むことにしたの。樹くんにもそうしてほしいって願ってる。それが……香純からの最後の伝言。」
「………」
「本当はね…手紙を書こうとしていたのよあの子…。でも手紙で残したらきっと樹くん…絶対に捨てられないからって…笑 樹くんは優し過ぎてダメなんだよね〜ってあの子………だから私が伝言を預かった。」
「香純の思い…理解してやってくれ。頼む…。」


香純の両親の目には涙であふれていた。でも彼らは決して涙をこぼすまいと闘っていた。そんな彼らに新見は泣き顔を見せる訳にいかず、90度のお辞儀をしその場を去った。