遠く、儚く。



あの日、俺の自宅での出来事以降、なるちゃんに明らかに避けられている気がする。

出勤時になるちゃんを見かけて声をかけようとしたのに、大全速で走っていってしまった。もちろん自分に気づかなかったか、時間がなかっただけかもしれないが…。

その後、律と柚の誕生日パーティーの準備のために2人で色々買い物に行ったが、終始元気がない。顔色も悪い。

最近寝れてる?と聞いても「うん…」と短く答えるだけ。


双子の誕生日パーティーを終え、2人が欲しがっていたものをそれぞれプレゼントした。大はしゃぎして、疲れ切ったのか11時過ぎには2人とも寝てしまった。



「なるちゃん俺の家ちょっと来て。」
「えっ…あぁ…うん…」


成瀬の手を取って、樹の自宅に入る。
ソファーに座らせて、顔色を伺うとひどいクマだ。


「クマひどいね……最近寝れてないでしょ?」
「いや…そんなことない…」
「嘘つかない。あぁ…脈もこんなに早い…。どしたの?何かあった?」
「……」


樹が俯く成瀬の顔を覗き込み視線を合わせようとするが、すぐに目を逸らされてしまう。


「話したくない?」
「……」
「俺がこの前突然あんなこと言って困っちゃった?そうだとしたら本当にごめん。」
「…そうじゃなくて…泣」


成瀬の目にじわじわと涙が浮かんでくるのを見て樹が慌てる。

「うん…そうじゃなくて…?」
「すごい嬉しくて……だけど不安で…。」
「うんうん…それで眠れなくなっちゃった?」


成瀬が樹の胸の中でぐすぐすと泣き崩れる。


「そっかそっか…たくさん考えてくれたんだね?」


成瀬が過去に経験したことはある意味、人生で経験しうる最大の裏切りだ。子どもにとって避難所のようにあるゆる危険や恐怖から守ってくれるのが親という存在だ。
なのにその親が成瀬を守らず、その役割を果たさなかった。
だから成瀬が成人後も対人関係において過度な不安を抱くのは当然だ。誰かとの愛着を築くのも、特定の関係性を築くのも彼女にとっては大きな困難が伴うはずだ。

そのことを全く考慮に入れず、突然距離を詰めてしまったことを樹は反省する。



「ごめんな…突然あんなこと言っちゃって…。僕が焦りすぎてた。」
「そんなこと…ない…ぐすっ……」
「僕がいなくなったら…裏切られたら…って怖くなっちゃった?」
「うん……」
「そうだよな…。当然だよ。なるちゃんのこと全然考えてなかった。ごめん。」

「すごく…嬉しかったの?幸せで…もっと近づきたくて…でもいつかまたどうせ傷つくなら…最初から始めないほうがいいんじゃないか……って怖い…」
「そっか…。僕はなるちゃんを絶対に傷つけたくないけど…断言することは難しいもんな…。」
「あの日のこと考えると…すごくドキドキして…眠れないの…。だけど同時に怖くて…悪い考えが止まらない…。」
「うんうん…そうだったんだね。」


成瀬を抱きしめて、泣いて呼吸の乱れた背中を優しくさする。自分にできることはこれくらいしかないのが悔しい。


「今日はここで寝て行かない?」
「…え……」
「なるちゃんの様子を見て入院が必要だと判断します…笑」
「…ははは笑笑」
「やっと笑った…笑 今日は俺の横で…横にいて欲しい。」
「……」(コクン)