季節は巡り秋。夏の暑さが和らぎ、心地よい風が吹きつけている。
成瀬と出会ってもうすぐ一年が経つ。
親しい間柄であることに違いはないが、成瀬と樹の関係は停滞したままだった。
トラウマ克服プロジェクトもまた停滞状態だ。
寝ることに対する恐怖感は未だ残ったまま、治療の効果もそれほど感じられず、警戒心や恐怖心からの過覚醒や興奮が再発している状況だ。
それに成瀬は大型プロジェクトを任され、残業も多く、帰宅時間も遅くなる日が増えていった。樹のシフトとも合わず、2人はもう2週間半も会っていなかった。
とある日の午後、成瀬は樹の勤める大学病院を訪れていた。樹に会うためではなく、新しい医療器具の営業のためだ。
受付で訪問者証を受け取り、エレベーターに乗り込む。
今日アポがあるのは外科。
6階に行けば樹が働く総合診療科がある。
どこかですれ違ったりしないか…と成瀬は淡い期待を抱く。普段は必要最低限のメイクしかしないのに、今日は少し気合が入っている。
会議室で待機していると、3人の白衣を着た医師たちが入ってくる。その後をトコトコとついてくる研修医?と思われる男性の顔を見て、どこか懐かしい感覚を覚えた。
あれ…どこかで会ったことある……??
ミーティングを無事に終え、先方からは前向きに検討するとの返答をもらった。今日のところは合格点だ。
安堵のため息をつき、外科部長たちが部屋を出ていくのを見守る。
「成瀬ちゃん……だよね??」
「えっ……」
「覚えてない…?俺同じ小学校の……」
「あ……隼人くんだ…!」
「そう!覚えててくれてたんだ!すんごい懐かしい顔があって…わぁ!会えて嬉しいよ!」
「私も…。元気?」
「うん!今この病院で研修医してるんだ!」
「そうなんだ!」
「あの後僕東京に引っ越して…成瀬ちゃんが大変な時に会いに行こうって思ったのに、成瀬ちゃんももうあの地区にいないって言われて…。ずっと気に掛かってたんだ。」
「そうだったんだ…」
「成瀬ちゃんいつこっちに??」
「高校卒業した後に来たんだ。」
「へぇー!そうだったの??意外と近くにいたのに…知らなかったな。ねえ、連絡先交換しよ!」
「あ、うん…いいけど……」
「どこに住んでるの?」
「〇〇駅の横のマンション。」
「俺は〇〇駅!近いね!これからはよく会えるね!」
「あっ…そうだね。」
テンションが高い隼人の勢いに押され、知らない間に連絡先を交換していた。
彼は高山隼人(たかやまはやと)。
小学校の同級生で、成瀬が唯一3ヶ月だけ付き合った彼だ。隼人の両親の転勤で突然引っ越すことになり別れた後、一度も会っていなかった。
「成瀬ちゃん変わらないね!」
「隼人くんこそ…笑」
「そうかなー?あっ会社戻るよね?下まで送ってくよ。」
一緒にエレベーターに乗り、病院の出口まで一緒に歩く。
「また今度飯でも食べながらゆっくり話そうよ!連絡する!」
「あっ…うん。」
「会えて本当に嬉しいよ!気をつけて戻って!」
「うん…ありがとう笑」
笑いながら和気あいあいとした雰囲気の2人を偶然通りかかった樹が見てしまった。
誰だあいつ…。
研修医か……
なるちゃん仕事で来たのかな…?どこか痛いとかじゃないよな…?俺に連絡してくれたらいいのに…と思ったところで、ゲーム用の連絡手段しか交換していないことに気がついた。
次会った時は絶対に聞くぞ……
