「どっちにしろショックが大きい出来事があったんだね?今までそれの影響力が続いてるし。」
「いわゆるトラウマってやつ…?それ自体は否定しない。だけど律と柚を育てるだけで必死だったし…私自身も一生懸命生きてたら過去なんて全く重要じゃないと思う。だから気を留めないことにしたんだ。」
「そういう方法で改善できるケースもあるけど、しっかり向き合って解決して、心と体の健康を守るのも大切なことだよ。僕が今見てるなるちゃんは、きっといつか限界が来る。」
「そうかな〜…自分なりに結構強い人間だと思うんだけどなぁ…」
「もちろん。なるちゃんが一人で働いて律と柚を育ててる姿を見てると、ものすごく強くてかっこいい女性だっていつも思ってる。正直なるちゃんみたいな人見たことないよ…。憧れるし…尊敬してる。」
「そう?笑 ありがと。」
「うん…僕は本気でそう思ってるよ。でも違う方法で問題に立ち向かうのも強さだと思うんだ?何より僕はなるちゃんが元気で幸せでいて欲しい。」
「もしかしてさ…私のこと…いや、何でもない。」
「僕はなるちゃんのこと好きだよ。ゲーム友達としても…その…異性としても。今すぐどういう関係になりたいとかではないけど。」
「あっ…そ…そうなんだ…。うん。そうなんだ。」
「僕に何ができるかは分からないし、なるちゃんがそれを望まないなら僕は何もしない。だけどなるちゃんの幸せを心から願うのは医者としてじゃなくて僕個人の感情が大きいと思う。」
「そ…そうなんだ。てっきり医者だから患者をほっとけない系なんだと思ってた…笑」
「僕だって…そんなプライベートまで患者さんのこと気にかけていられないよ笑 でも僕の行動が線を越えたらいけないって思っているし、なるちゃんが嫌ならもちろんしない。」
「いや…別に……」
線を越えてもいいのに……と成瀬が小声で呟いたのを樹はしっかりキャッチした。
なんだかんだ、成瀬の方も樹をずっと前から意識していたのだ。樹のように幼い双子を引き取って育てていることに関して理解を示してくれる人は多くない。それにゲームをしていても終始穏やかで、イライラした態度も見せたことがない。正直こんな人どこにいるだろうか…と思うほど理想的な男性だった。
「実は僕にも昔悲しい出来事があって、乗り越えないといけない問題があるんだ。だから6年以上恋愛もしたことがないし、始めるにもすごく勇気がいる…。なるちゃんと一緒かも?一生懸命生きてたらこんな問題向き合う必要もないと思ってた。」
「そうなんだ……」
「でもなるちゃんと出会ってから少しずつ…確実に変わりたいって思ってた。だから……その…」
「あのさ……この際誤解を招くのが嫌だから…はっきり言うね…??私さ、小学生の時3ヶ月だけ男の子と付き合った以外誰とも付き合ったことないの…!だから……あのよく分かんないし…その……任せる!」
「あっ……そうなんだ…。分かった。」
お酒のせいではない。確実に顔が真っ赤に染まった成瀬を樹が微笑みながら見つめる。
正直この美貌で…男が群がって来ない訳がないのに…。でも確かに隣に一年住んでて、今まで一度も男の影を感じたことがない。
ベッドの上で恥ずかしそうに膝を抱える成瀬の横に樹が座る。一気に二人の雰囲気が変わる。
「じゃあ僕が先に近づいてもいい?」
「いいけど……ちょっ…こういうのじゃない。」
「横に座るのもだめ?恥ずかしい?」
「そりゃ恥ずかしいよっ!男の人と二人きりになったことなんてないし!」
「あっ…ごめん…もちろん手は出さないから…怖かったよねごめん…」
樹が瞬時に立ち上がって元いたベッドサイドに座る。
「いやっ…そういうことじゃないけどこの空気感が…慣れなくて。」
「そうだよね…分かってる。」
「別に嫌じゃない。」
この人は私を無視して線を越えてくる人ではない……成瀬は樹を信頼していた。
「嫌じゃないなら良かった…。とりあえず…なるちゃんがいいなら、これから僕が休みの日には、なるちゃんが寝るまでここで一緒にいてもいいかな?この前言ってた寝る時に思考をコントロールする練習をしよう。」
「うん…。」
「おっけ、決まり。」
