遠く、儚く。



コンビニで買って来たものを冷蔵庫にしまい、適当に整理整頓をする。勝手に触るのはどうかとも思ったが、手を洗うついでに食器洗いも簡単に済ませる。

鍵をポストに入れて出ること、起きたら連絡するようにとメモに書き残し、ベッドサイドに置いておこうと再び寝室に戻った。

起こさないように…と静かに近づくと、成瀬が額に汗をかくほどにうなされていた。寝るのが怖いというのは何となく言ったことではなかったようだ。

眉間にシワが寄るほど目をぎゅっと瞑っていて、荒い息が聞こえる。

額の汗を拭いながら優しく頭を撫でる。



しばらく見守るが成瀬は目を覚さない。

悪夢は徐々にひどくなっていく……



「大丈夫??」
「んん……ん……」
「大丈夫??」
(バサっ)「…えっ!私寝てました??」
「うん…。大丈夫?結構汗かいたね。」
「…あぁ…。」
「ちょっとスポドリ飲む?」
「あぁ…うん…」



まだうつらうつらしている状態の成瀬に、コップに注いだスポーツドリンクを差し出す。

ごくごくと飲み干して一息ついた成瀬に優しく問いかける。



「こういうことよくあるの?」
「…そう。もうずっとやから慣れっこだけど。」
「そっか…いつも同じ夢?」
「まぁ…大体同じ。」
「そっか…。昔大変なことがあったんだね?」
「…そう。」
「病院は?」
「最初の方はなんか強制的に連れてかれてた。でも良くならなかった。薬とか飲んでみたりしたけど効果なかった。」
「そうだったんだね。最近ぐっすり眠れたのはいつ?」
「うーん…いつだろう…」



「もうずっとこうだから…こんなもんだよ。」と軽く答える成瀬だが、状況はかなり深刻に思える。

診療を受けていたこともあったけど効果はなかったということだから、医師への信頼もそれほどないだろう。

どんな手が使えるだろう……頭を必死に回転させる。



「律と柚は問題ないみたいだけど…なるちゃんだけなの?」
「律と柚はまだ小さかったから覚えてない。」
「そっか…。なるちゃんは何歳だったの?」
「13…いや14かな?13だ。中1の時。」
「じゃあ律柚は1歳か…?」
「そう。何も覚えてなくて良かったよ…。」
「ご両親が亡くなったことに関連してる?」

「そう。まぁ…相討ちだったから…バカな親だよね。」
「相討ち…?」
「厳密に言えば相討ちではないけど…まぁお互いに…そういうこと。」
「そっか……。今はいろいろ聞いて欲しくない?それとも聞いて欲しい?」
「別にどっちでも…でも大した内容はないよ。」



もう12年も引きずってるのに大したことない訳ない…。

どんな推測を立てても、成瀬の口から出てくるのは「大したことない…いつものこと…」そんな言葉ばかり。

本当はもっと関係性を築いてから、いろんな話を聞いた方が治療的には望ましいと思った。でも一緒にお酒を飲んだり…こんな密室で二人でいるということが医師と患者としての関係性としては適切でないことは明らかだ。

それに自分が彼女にただの知人以上の感情を持っていることも問題だ。治療第一に考えるなら自分以外のちゃんとした精神科医に繋げなければ……。