遠く、儚く。



ピンポーン、とインターフォンが鳴る。

成瀬は鏡を覗き込み、先ほどはしていなかったマスカラとリップを塗っていたところだった。急いで化粧を仕上げ、玄関ドアを開けると樹が立っていた。

樹の髪はまだ若干濡れていて、西陽に照らされてキラキラと光っている。普段から鍛え上げられてる上腕が半袖から覗いている。

今日は妙にかっこいいっていうか…色っぽいな……。

そんなことを考えながらも平然を装う。



「お待たせー。」
「いや全然大丈夫。」
「何食べに行く予定だった?」
「うーん…焼き鳥か海鮮。」
「いいね。どっちがいい?」
「焼き鳥。」
「おっけそうしよう。焼き鳥久しぶりだなぁー。」



成瀬と樹は有名焼き鳥チェーンに入った。

なんだかんだ二人きりで食事をするのも、お酒を飲むのも初めてのことだ。それでもやはりいつも一緒にゲームをしている仲なので、ぎこちなさなどは特になかった。



「こんなふうに呑みに来るなんていつ振りだろう…多分3回もなかったと思うけど。」
「え、そうなの??」
「ほら律と柚がいるし…。18で二人を施設から引き取ってすぐコロナになっちゃったし。大学も飲み会とかはほぼほぼNGだったからさ。」
「確かになぁ…そういえば俺も職場の飲み会とか合コンの人数合わせとか以外に一人で外に呑みに来たことほとんどないな…。」
「だよね…。それに仕事以外は家でゲームの引きこもり体質だし…笑」
「それな笑」



元々口数が少ない方なのに、樹といる時は自然に会話が弾む。ワイワイ盛り上がるほどではなくともずっと話題が途切れない。樹がセンスよく質問や相槌をしてくれるからだと今更気づいた。

こんな人…今までいたっけ……?



「なるちゃんはさ、彼氏とかいるの?」
「いないいない…笑笑 もしいたらこんなに家でゲームばっかりしてないよ笑」
「確かに……笑」
「何ならリアルの世界で友達もいないから!ほら今日も元々一人だったし。」
「そっか…。律と柚育てながらだと同じ年代の友達とは付き合うのは難しいよな…。」
「そうそう。恋愛も到底無理。もちろん最初から分かってたことだし覚悟してたから、そんなに大きな問題じゃないけどね。笑笑」



ケラケラと軽く笑う彼女に、1ミリの不満も後悔も感じられない。樹は成瀬の心意気に感嘆しながらも、成瀬を取り巻く現状がどれだけ苦しいのかを感じ取った。

強い人だな…。
優しい人だな…。
もっと知りたい……彼女のこと。