遠く、儚く。




季節は巡り、夏休みシーズンに突入した。

双子は小学生最後の夏を満喫していた。中学受験に向け塾に通っている二人だが、友達と遊ぶために意気揚々と合宿に向かっていった。これもまた青春だ。

5日ほど育児の手を休めることができる成瀬は、何年振りかの長期休暇を取得した。昼から酒を飲み、ゲームをしたり、変な時間に寝起きする。普段は到底できない生活を満喫しながらも、何か物足りない…。

双子が家にいなくて静かだからなのか…
隣の家のゲーム友達が最近全然オンラインにならないからなのか……
またあるいは仕事禁断症状なのか……

どれも合っている気がする。


優しく落ち着いた、低すぎない低音ボイス。
いつもなんとなく聞いているが、何度思い返してもこんなにタイプの声の人は出会ったことがない気がする。

家に自分が立てる音以外聞こえないからなのか…無性に恋しい。

なんてことだ…。
私としたことが……

成瀬は頭をブンブンと振って頭の中の雑念を振り払う。
こうなったら久しぶりに外に飲みに行こうか…。


タイミングが良いのか悪いのか、玄関を出たところで樹と鉢合わせしてしまう。

人知れず心が躍る。



「あれ、なるちゃんじゃん。久しぶり。」
「久しぶり。最近忙しいみたいだね。」
「あーうん。実家の手伝いに行っててしばらくゲーム出来てなかったんだ。」
「へーーそっか。」
「あれ?ちょっとお酒飲んだ??」
「あ、分かった??」
「うん。ちょっと顔が赤い。」

「えっ(慌てた様子で)……えっと多分ものすごい久しぶりに飲んだからかなぁ???ほら、律と柚が夏期講習でさ!手が空くから私も長期休暇取って昼からお酒飲んだらして!!」
「ははは…笑 そうだったんだ。珍しいねぇ。普段本当によく頑張ってるもんな。えらいえらい。」
「いやそんなことはないけど……」
「どこか出かけるの?」
「あぁ…外で呑みにでも行こうかなって…。」



樹は「えっその格好で……?」と言いそうになったところを寸前でやめた。

蒸し暑い天気のせいなのか、成瀬はオフショルダーの白くて短いトップスを着ている。薄化粧でも目を引く華やかな顔立ち。細く華奢な首筋や肩のラインにへそ出しコーデ………軽く言って致命的だ。男なら必ず目が向いてしまう。


「えっ…あぁ…!そうなんだ!約束??」
「いや一人だよ。友達いないし。」
「そうなん?笑笑 俺も今から呑みに行こうかと思ってたところなんだけど一緒にどう?」
「いいねーオフ会だ。」



すんなりとOKしてくれた成瀬に樹は少し驚く。

こんなに簡単だったのか…。
いや彼女が簡単っていうことじゃなくて…彼女と距離を縮めるのはとても難しいことだと思っていた。

あの美貌なら交際相手がいてもおかしくない…いやいるであろうと推測するのが妥当だし、彼女も数えきれない程のアタックを受けてきただろうし…。自分が変に近づこうとして今の良好な関係まで失いたくなかったから。

こんなに簡単ならもっと早くしていればよかった…。



「ごめん。10分だけいい?軽くシャワーしてきてもいい??」
「もちろん。家で待ってるから…インターフォン押して。」
「おっけ了解。」