「…さ〜ん…大嶌さ〜ん!」
「っん……」
看護師が点滴が終わった成瀬を起こすが、成瀬は体調が全く回復していないのか、目を閉じたまま顔をしかめるだけだ。
「熱下がってないですね…すぐ先生呼んできますからねー。」と看護師が言い部屋を出ていく。
目の奥と頭が割れそうに痛い……。めまいと吐き気も止まらない。こんなに酷いのはいつぶりだろう……。最悪のタイミングで…最悪の状況。やっぱ私の人生何一つ上手くいかない。。診察室の部屋がガラッと開く音に驚き、ブワッと涙が溢れるのを咄嗟に袖で拭う。
「大嶌さーん。大丈夫??あちゃー…熱全然下がらなかったか…」
「入院…ですか…?泣」
「残念だけどそうなっちゃう。あれっ……寒い?」
ガタガタ震える成瀬を見て新見が心配する。額にもびっしりと汗をかいていて前髪が張り付いてしまっている。
まだまだ熱は下がりそうにないし…吐き気もある。
抗ウイルス薬を点滴するしかないなと判断した新見が看護師に点滴と汗を拭くよう指示する。
「今どこが一番辛い??」
「頭が…割れそうです…。」
「熱が高いもんな…。大丈夫だよ。点滴追加したらすぐ良くなるから。心配しないで。」
「こんな…ひどいのは……いつぶりだろ…死ぬかも」
「はぁ…かわいそうに…。」
看護師が診察室に戻ってくる。
新見が点滴をセットする間、看護師が成瀬の汗を拭く。
つらそうに顔をしかめる成瀬を見ながら、すぐにでも楽にしてあげたい…という気持ちと、すぐに病院に来ていればこんなことにならなかっただろうに…という少しの苛立ちを感じる。
寒がる成瀬に厚手の毛布をかけ、眠りに着くのを見つめていたら、いつのまにかシフト交代の時間を過ぎていた。長かった連勤が終わり、今から6連休の始まりだ。
いつもなら誰よりも病院を抜け出して家に向かっていただろうに、今日はそんな考えが1ミリも浮かばない。
「新見あけおめー!まだ帰んないのー??」
診察室に大きな声で入ってきたのは同じ科の看護師・笹木だ。新見がまだ病院に残っていると聞きつけてやって来たのだった。
「シーー!」
「おっと失礼…。誰?患者さん?」
「うん。インフルで全く熱下がらず。ラピアクタ入れてちょっと下がったかなってところ。」
「へえ… 早く引き継ぎして帰りなよ。今日から連休でしょ。」
「そうなんだけどさ…。まだ家族が来てなくて。」
「あ、この子…?」
「実は俺ん家の隣に住んでる子なんだ。顔見知りでさ。」
「あーだから残ってるのか。」
「まぁそういうこと。」
「とりあえず他の先生に引き継ぎして帰りなー。自分も無理するとインフルかかるよー?私は行くわーじやーねー!」
笹木が颯爽と診察室を出て行く。
うるさくて目が覚めたのか、成瀬がモゾモゾと動く音がする。カーテンを少しだけ開けて新見が成瀬の様子を伺う。毛布は暑かったのか横によけたまま、体を丸め赤ちゃんのように寝ているのが見えた。
「んぅ……」
「ごめん起こしちゃったよね…?体調はどう??」
「…昨日よりはだいぶいいです…」
「吐き気はどう?」
「今はないです。今何時ですか…?」
「朝の10時。お腹空いてない?何も食べられてないんじゃない?」
「少しだけ…」
「わかった。何か持ってきてもらうようにするから。」
「あの…私の荷物って…」
「ここだよ。律くんたちに連絡?」
「はい…お腹空かせてるはずだから…。何か出前注文しないと…。」
電話をかけるとすぐに柚が電話に出た。
体調が悪く入院することになったことを伝え、何が食べたいかを尋ねて注文すると話す成瀬。終始「ごめんね…ごめんね…」と謝ってばかりの成瀬に新見が同情する。
「大嶌さん、ご両親とか親族は近くにいらっしゃらないの?」
「あぁ…両親はすでに他界してて、親族とも特に付き合いがなくて…。律と柚と私の三人です。」
「そうだったんだ…。大嶌さんえらいね。すごく頑張って生きてるんだなって伝わってくる。」
「そんなことないですよ…笑 でも律と柚には私しかいないですから…覚悟決めて頑張らないとですよね。」
「だから今回こんなに無理しちゃったの??」
「それとはあんまり関係ないんですけど…まぁ…次回からは早めの受診を心がけます…。」
「そうしてください…笑」
