学校帰り、恋が宗介の家によると、宗介はリビングでカップ麺を食べようとしているところだった。
恋が入って行くと、宗介は、食糧棚からもうひとつカップ麺を出してきて、恋に放って寄越した。
「今お湯沸かし直すから。ちょっと待ってな。すぐ済むから。」
宗介は蓋に箸を置いた自分の分のカップ麺を湯気を立てて開けながら、恋に言った。
「私食べないよ」
「なんで?」
「お腹空いてない」
「ふーん。じゃあ僕がもうひとつ食うから、待ってて。」
宗介は恋の前でソファに座ってカップ麺を食べ始めた。
「1つじゃ足りないんだよね。量少ないから2つ位はさらっと食える。恋本当に食わなくていいの?」
「要らないよ」
「ふーん、唐変木。おいしいのに。まだ沢山買ってあるから、食べたくなったらいつでも言いなね。」
それから、
「恋、今度の休み、またショッピングモールに行かない?」
と聞いた。
「映画も新しいのやってるし、そうそう、そろそろ教材も買い替えなきゃ。他は何でも良いんだけど、数学の問題集だけは、決まった出版社のしか買ってないんだよな。確か本屋でも何かフェアをやってたはず。2点買えばポストカードが貰えるとかなんとか。」
「今度の休みは、別荘に……」
恋の中では、専門店のアイス食べ放題、が尾を引いていた。
心のどこかで、美風の別荘の色んな種類のアイスを食べたがっている自分が居て、恋はうっかり口を滑らせたのだ。
「別荘って?」
慌てて口を押さえた恋に、宗介が耳聡く聞いた。
「誰んち?。もう約束したの?。僕に断りもなく?。」
「……」
「誰の別荘?。恋。」
恋は嘘を突き通せなくて、最後にとうとう白状した。
宗介は恋の言い訳と説明を聞きながら、だんだん眉を釣り上げていった。
説明が終わった時、宗介は笑顔だった。
この笑顔は宗介が機嫌を悪くした証拠である。
「僕がお前に今聞きたいのはグーかパーかどっちが良い?って事なんだけど。」
怯んだ恋に宗介は静かに続けた。
「グーなら頭パーなら頬。まず一発で反省が足りなかったらもう一発。」
「……。」
「どっち?」
恋は迷った末に小声で言った。
「パーの方が痛くない。」
ゴチン!。
とたんに間髪おかず宗介は恋の頭をグーで打った。
「パーが良ければグー。当然。」
含蓄のある声音でそう言うと、お説教が始まった。
「樋山のところなんか行かないの。当たり前だろ。僕を何だと思ってるんだよ。」
宗介が言った。
「お前、カップルを何だと思ってんの。彼氏以外と2人きりで出かけていいと思ってんの?。お前の彼氏は樋山じゃなくて僕だろ。いい加減にしろよ。」
「……」
「まったく。大体、この間から向井とか樋山とかと遊びに行くの、もう何回目だよ?。1回締めなきゃ分かんないのかな。ほんとに。……じゃあ聞くけどさっき僕が聞かなきゃ樋山の別荘に遊びに行ってたんだね?。僕の気持ちを踏みにじって、よくもそういう事ができるね!最低。人間疑う。」
「だって」
「僕がお前のこと大事にしてるだけじゃ足りないの?。足りないなんて言わせない。恋愛は1対1で、2じゃないっていつも言ってるだろ。三角関係、って言われると僕は反吐が出るんだから。お前本当はどう思ってんの?その事。」
恋が何か言う前に宗介はもう一度聞いた。
「本当のところはどう思ってるんだよ?」
恋が応える前に、宗介はため息をついた。
それから、
「とにかく、僕が同行しないなら、樋山とは遊ばないように。別荘なんてとんでもない。行っちゃ駄目だからね。」
と言った。

