学校帰り、恋は宗介の家へ寄った。
 宗介は恋がリビングに入ってくると、買っておいたジュースを冷蔵庫から出して、ガラスのコップに注いだ。

 
「加納先輩に変なもの渡された」


 テーブルにジュースを置いてソファに座り直すと宗介が言った。


 
「変なものって?」

「100の質問シートだって。」



 宗介は伊鞠に渡された薄いファイルに入ったプリントの様なものを恋に渡した。

 恋が見てみると、プリントにはびっしりと小さな字でカップルについての質問が書かれていた。


「最初に手を繋いだのはいつですか。恋人の事を最初はなんて呼んでいましたか。」


 恋が読み上げると、宗介はうんざりした顔でため息をついた。


「くだらな。……最初に手をつないだのは幼稚舎で覚えてない。恋の事は最初から恋って呼んでた。それがなんだっていうんだろ。」

 
 宗介は言いながら、プリントを手に取った。



「答えるの?」

「まさか。全部ノーコメント。白紙で返すよ。どうせあの下らない新聞で使うんだろうし。これ以上ネタにされたくない。僕と樋山の事年がら年中書き立ててるんだから。この間も特集組むとかで追いかけ回されて酷い目に合った。勘弁して欲しい。」



 恋はプリントを覗き込んで質問をいくつか読み上げた。


「恋人の第一印象は?。最初のキスは何味でしたか?。初デートはどこ?。……最初どうしてましたかっていうのは幼馴染だと盛り上がらないね。」

「子供の時から一緒に居ると、慣れてて照れとかないもんね。その方が良いよ。気楽だ。そもそもずっと前から付き合ってるのとおんなじ様なもので、初々しさを求められても困る。僕たちは幼馴染カップルだ。樋山も同じもの渡されてた。」


 宗介はそう言うと、ジュースを一口飲んだ。


「新聞部も下らないことやめれば良いのにね。なんで僕たちばっか記事にするんだろ。変な人たち。樋山だけが1人で特集組まれれば良いのに。あのルックス、喋り方、振る舞い、いちいちイラっとくんだよね。恋もそう思わない?」


 来るとも来ないとも言いかねた恋はジュースを飲みながら小さくため息をついた。