美風の部屋は広い。
 二間ある自分の部屋は、寝室の勉強スペースと居心地のいい小さなリビングに分かれていた。
 
 部屋の隅のビンテージ調のお洒落な細い棚には、ボトルシップのコレクションが上から下まで並べられていた。
 親戚の人がプレゼントしてくれたそれらを、美風はせっかくなので部屋に飾っていたのだ。

 舟の作りは小さいながら精巧で、ボトルの中の白いマストが風をはらみ、今にも動き出しそうだ。

 下の階から声がして、美風はふと顔を上げた。


 
「美風」

「なに」

「下に降りてこない?。ちょっと用事があるのよ。」



 美風を呼んだのは美風の母親だった。
 
 階段を降りていくと美風の母親は明るいエントランスホールで美風を待っていた。


「なに?」

「向こうに居た時の知り合いから、あの町のプールのチケットを沢山貰ったのよ。」


 美風は母親からそれを受け取って見た。

 沢山の人が泳ぐ絵の描かれたチケットが20枚ほど。


「あの室内プールと外プールのある、大きなアミューズメントパークみたいになってるプールの。」
 
「こんなにどうするの?」

「あなたがお友達と行って来ないかと思って。楽しいんじゃないかしら。」

「ふーん……そっか。」


 
 美風はチケットを眺めながら頷いた。

 
 明かり取りの大きな窓ガラスからは広い庭が見えている。
 入ってきていた小鳥が鳴いている。


 美風はプールのチケットを全部持って、また自室へ帰った。