◆◇◆
「恋!」
「恋ちゃん、おままごとしようよ。」
幼稚舎の砂場。
恋は、宗介と灯という女の子と、おままごとをしようとしているところだった。
「宗介くんは何の役する?パパ?お兄ちゃん?」
「僕は何でも良い。恋、砂は本当には食べないの。病気になるよ。みんな食べるフリだけしてるの。今度やったらこう。」
「宗介は……ママ。」
「宗介くんがママするの?。良いけど変じゃない?。」
「宗介がママが良い。」
「恋、ママは女の子がやるの。まったく。僕お前がママならパパでも良いけど。おままごとなんて僕恋が居なきゃやらないんだからな。子供っぽくて笑っちゃう。」
「じゃあ良いよ。宗介くんと恋ちゃんは結婚してるのね。それで赤ちゃん居るのね。」
しばらく三人でおままごとをしていると、グラウンドの方から男の子達が数人走ってきた。
「宗介ドッジしようぜ」
「良いよ。これが終わったら。ちょっと待って恋、何度も言った。お団子本当に食べちゃ駄目だからね。それに、きれいなお団子に拘ってもしょうがないだろ。」
「パパー、私お腹すいたでしゅ。」
「灯ちゃんは赤ちゃんだよ。」
「私赤ちゃんなのに喋ると変かな?」
「別に良いよ。天才の赤ちゃんなんだよ。」
「適当言ってる。パパはドッジしに抜けるよ。ちょっと行ってくる。」
宗介がそう言った時だった。
立ち上がった灯ちゃんのスコップの砂が掛かって、驚いた恋は狐に変身してしまった。
「あれ?」
「恋が居ない」
灯ちゃんと男の子達は顔を見合わせた。
そして代わりに現れた狐に注目した。
「狐?。犬かな?」
「狐だよ、それ。」
宗介が怒った顔で言ったので、灯ちゃんはちょっと困った顔になった。
「恋が居なーい」
「恋ちゃんが居なくなっちゃった」
灯ちゃんは言い当てた。
「もしかしてこの狐、恋ちゃんだったりして。」
ムスっとしている宗介の周りで、男の子達は違うことを考え始めた。
曰く、
「恋をこの狐が隠したに違いない」と。
「狐ー!。恋を返せー!」
男の子達は、近くにあった木の棒で子狐の恋を打った。
「辞めろ!」
宗介が思いのほか怒った声で言ったので、男の子達は驚いた顔をした。
「何で?、狐だぜ。」
「可哀想だろ。狐でも。」
宗介は男の子達を睨んだ。
「その狐、恋だったらどうしてくれるんだよ。」
「狐が恋ってどういう事だよ。」
「宗介馬鹿になっちゃったんじゃねーの。」
「……とにかく、狐を苛めんなよ。動物虐待。可哀想だろ。最低、そういう事する奴。」
男の子達は宗介の剣幕に押されて、木切れを捨てた。
一方、恋はその時幼稚園児だったので、人に戻るタイミングを間違えた。
恋は、その言い合いの真最中に狐から人に変身してしまった。
もくもくと上がる変身の煙の後にパチっと音がして、宗介がすかさず恋の頭を打った。
園児だった恋は泣き出した。
「宗介くんが恋ちゃん打ったー!いけないんだあ!。」
「今の煙って何?。宗介、恋を打っちゃ駄目だよ。」
「まったくもう、恋は。馬鹿なんだから。危なっかしいったらない。もう知らない。」
宗介は大人の様に腕組みをして恋を睨んだ。

