並んだ大体の店の中を見回ってから、宗介と恋は2階のフードコートに入った。

 フードコートのアイス屋では、フルーツシャーベットのフェアをやっていて、カウンターには可愛らしいフルーツの模様の飾り付けがしてあった。


 宗介と恋は、シャーベット買ってから、ガラス張りの窓際に席を取った。


「お前が狐だっていうことで、引け目を感じてたら言ってやる。」


 シャーベットをスプーンで大きく掬いながら宗介が言った。


「動物になれるのなんかお前くらいだ。僕はむしろ良いと思ってる。貴重だしね。お前の特別なところ。もっとも、秘密だから人には言えないけど。」


 宗介は話を変えた。



「恋、この間学校で貰った資料に、部活動のパンフレットがあったけど、お前はもうどの部活にも入らなくて良いんだよな?。」

「うん。」

「部活は時間を使うだけ。お前はこれから家で勉強しなきゃならないんだから、余計な事考えない様にね。パンフレットもお愛想程度に見て、捨てた方が良いよ。茶道部やって分かっただろ。楽な部活なんてなかなかない。どうせ入らないんだし。」

「うん、分かってるよ」



 宗介は窓から外の景色を見た。

 2階のこのガラス窓からは電車の通っている駅と近くの静かな街並みが見える。

 夕方になりかけた空は不思議な色合いをしていた。


「お前がこれからひとつも変わらなくても、僕はお前を好きで居てあげる」


 空を眺めながら宗介が言った。


「お前がこれからどれだけ失敗しても、僕がそれを取り戻してあげるよ。」


 宗介の決意は固かった。

 宗介は、この狐の女の子の事を、一生守ってやろうと決めていた。

 そのために大人になって、どんなことでもできる様になろうと決心していた。

 ガラス張りの壁一面に夕焼けが映って、2人はまるで雲の上に居るみたいだ。

 宗介はシャーベットを置いた。



「宗介」

「恋、約束。これから先もお前を困らせるものがあったら、全部僕がなくしてやる。」



 そう言ってから、宗介はセンチメンタルな気分に気づいた。


「その代わり。」


 宗介が口を開いた。


「もしもお前が僕を捨てたら、お前の行く所全部にこいつは狐だってバラして、お前をお尋ねものにしてどこにも行く事ができなくして、その後お前の事は捕まえて絶対に狐汁にして食うから、後悔することになるよ。嫌がること全部して泣かすから。良い?」


 ニコッと宗介が笑った。

 底知れないどす黒い渦巻く愛情に、恋は気づかない。



「……」

「言っておくけど、僕誰にもお前のこと譲る気ないからな。そ・れ・と、それってどういう意味か分かる?。」

「うん、」



 恋は困った顔で言った。


「お前が狐で良かった。秘密は弱みになるし。一緒に眠れるし、抱き上げるの楽だしね。」


 宗介は、ふと恋の腕を取ると、テーブルの上で顔を寄せて触れるだけのキスをした。


「今日は楽しかったよ、恋。とっても。」


 宗介が笑った。

 恋はきょとんとした顔で宗介を見返した。


「……アイスを食べた後だと、アイスの味のキスをしたっていう事になるのかなあ。」


 恋が言った。

 宗介はそっけなかった。


「さあ。なるのかもね。でも、そういうの、ちょっとしつこい。考えない方が良いよ。」



 それからついでのように、


「帰りチョコレート買っていこうか。お前と田山がお菓子の話したせいで、なんか食べたくなった。滅多に食べないけどね。」



と言った。