◆◇◆
地下世界にも町があったが、そこで揃わないものもある。
シェルターから出て、恋と美風は買い物に出てきていた。
宗介は会長から手伝いを頼まれたとかで、今日は一緒に来れなかったのだ。
恋と美風は買い物袋を持って、歩道橋を歩いていた。
前衛的な形の魔法協会。並んでいるマンションと商店街。向こうの空には白い雲と、飛行船が浮かんでいる。
「あの飛行船も、魔法で動いてるんだって」
お土産のパン屋の袋を抱えたまま、美風が口を開いた。
「こっちの世界はなんでも魔法だね。科学は発達しないみたい。科学者よりは魔法使いの方が多いんだって。」
「飛行機も魔法らしいよ。怖くないのかな」
「さあね。慣れてちゃってるんだろうね。モンスターすら居る世界だし。向こうの世界に居る時は想像もつかなかった。」
美風がくるりと振り返った。
「新田さん、こういう世界すら一緒に体験した二人は、いつか結ばれると思わない?」
「え……」
「不思議体験を共にして、ますます惹かれ合う。そうだったら良いなって思ってるんだけど。」
「でも宗介が……」
「ああ、あいつ。」
美風はつまらなそうに目を伏せた。
「単なる邪魔者だな、あれは。新田さんのおまけだとして嫌だ。居なかったらどんなに清々するか。ねえ新田さん……」
美風が口を開きかけたところで、辺りの空気がさっと変わった。
モンスターの居る空気は、いつも灰色がかっている。
灰色の空気の匂いを嗅ぐと、美風はふっと笑って言った。
「そうだ、僕の考案したショット、見せて上げる」
とたんに目の前に出現したモンスターに、美風は最初なぜか動かなかった。
美風を狙って目前に迫ったモンスターに、恋が目を瞑ると、次の瞬間、片手をあげた美風のてのひらから強い銀色の光が放たれた。
それは一瞬だった。
「僕、杖なくても魔法使えるらしいんだ」
はらはらと砂の様に雲散霧消したモンスターを間近で見やりながら、美風が言った。
「新田さんに手を出そうなんて甘い甘い……」
びっくりして固まっている恋を見て、美風がクスリと笑った。
「面白いでしょう?」

