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 地下世界にも町があったが、そこで揃わないものもある。
 
 シェルターから出て、恋と美風は買い物に出てきていた。
 宗介は会長から手伝いを頼まれたとかで、今日は一緒に来れなかったのだ。

 恋と美風は買い物袋を持って、歩道橋を歩いていた。

 前衛的な形の魔法協会。並んでいるマンションと商店街。向こうの空には白い雲と、飛行船が浮かんでいる。

 
「あの飛行船も、魔法で動いてるんだって」


 お土産のパン屋の袋を抱えたまま、美風が口を開いた。

 
「こっちの世界はなんでも魔法だね。科学は発達しないみたい。科学者よりは魔法使いの方が多いんだって。」

「飛行機も魔法らしいよ。怖くないのかな」

「さあね。慣れてちゃってるんだろうね。モンスターすら居る世界だし。向こうの世界に居る時は想像もつかなかった。」



 美風がくるりと振り返った。


「新田さん、こういう世界すら一緒に体験した二人は、いつか結ばれると思わない?」

「え……」

「不思議体験を共にして、ますます惹かれ合う。そうだったら良いなって思ってるんだけど。」

「でも宗介が……」

「ああ、あいつ。」


 美風はつまらなそうに目を伏せた。


「単なる邪魔者だな、あれは。新田さんのおまけだとして嫌だ。居なかったらどんなに清々するか。ねえ新田さん……」


 美風が口を開きかけたところで、辺りの空気がさっと変わった。

 モンスターの居る空気は、いつも灰色がかっている。
 灰色の空気の匂いを嗅ぐと、美風はふっと笑って言った。

「そうだ、僕の考案したショット、見せて上げる」


 とたんに目の前に出現したモンスターに、美風は最初なぜか動かなかった。
 美風を狙って目前に迫ったモンスターに、恋が目を瞑ると、次の瞬間、片手をあげた美風のてのひらから強い銀色の光が放たれた。

 それは一瞬だった。

 
「僕、杖なくても魔法使えるらしいんだ」


 はらはらと砂の様に雲散霧消したモンスターを間近で見やりながら、美風が言った。


「新田さんに手を出そうなんて甘い甘い……」


 びっくりして固まっている恋を見て、美風がクスリと笑った。


「面白いでしょう?」