伸ばしかけた俺の指先が、誘われるようにそっと目の前の白い頬に触れた。
「なんで、泣いてんだよ……………」
つぅ、と静かに頬を伝い落ちる涙が、夜の光を吸い込んで細く美しく光る。
その指先に触れた一粒の雫が、今の俺にはやけに重く、そして冷たく感じられた。
……なんでだ。
なんで今のお前は、こんなにもガラスみたいに脆くて、今にも夜の闇の中に溶けて消えてしまいそうなんだ。
いつもは生意気で、意外と口も悪くて。
常にこっちのペースをめちゃくちゃに振り回してくるような奴だったはずなのに。
今の俺には、目の前の存在が“誰なのか”さえ分からなくなっていた。
けれど───。
「もう、私から離れていかないで………っ……」
その掠れた小さな声を聞いた瞬間、俺の思考は完全に停止した。
ギュッ、と、俺の着ている特攻服の胸元を、細くて小さな手が必死に掴んだ。
何かにすがりつくみたいに。
必死に、俺をここから逃がさないように。
特攻服を掴むその力は、男とは比べものにならないくらいあまりにも弱くて。
……なのに、俺の心を縛りつけるには、どうしようもなく強すぎた。
その瞬間だった、胸の奥でずっと張りつめていた何かが、プチッと音を立てて千切れる。



