君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~



……前髪を払った、その先。

そこにあったのは、俺と同じ“男”の顔なんかじゃなかった。



月明かりに透けてしまいそうなほどに白い肌と、小刻みに震えている長い睫毛。

そしてその奥で、今にもこぼれ落ちそうな涙をいっぱいにたたえて揺れている、大きな茶色の瞳。


──それは、あまりにも深くて、あまりにも綺麗だった。



一瞬の間に呼吸の仕方を忘れてしまうほど、俺の視線は由良の顔に釘付けになる。


ドクン、と心臓がうるさいほどの音を立てて跳ね上がり、全身の血が一気に頭へと逆流していくように熱い。





「…………なんで、隠してた」


やっとの思いで低く絞り出した声は、自分でも驚くほどひどく掠れていた。


夜の潮風にあっけなく流されていく、俺の不器用な言葉。

それでも、いつの間にか掴んでいた由良の肩の感触だけは、やけに鮮明に手のひらに残っていた。




……想像以上に、細い。


手のひらから伝わってくるのは、”男のそれ”とは明らかに違う、柔らかくてあたたかい体温。




────男だと思っていた。

ずっとそう信じて疑ってこなかった。



なのに、目の前にある残酷なまでに美しい現実は、俺の常識を簡単に裏切ってくる。