君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~

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いつの間にか、空はゆっくりと色を変えていた。


茜色だった水平線は、少しずつ濃紺に侵食されていき。
遠くの海が、夜を連れてくる。



そろそろ帰るか──

そんな言葉を考えかけた、その時だった。


ふっ、と。
目の前に、冷たい影が落ちる。


「…………?」


空気が変わった。

さっきまで確かにあった穏やかな熱が、一瞬で冷え切っていく。


まるで本能で察知したみたいに、腕の中にいた由良の肩が小さく震えた。


「……っ」


その反応に、俺の神経が一気に張り詰める。

由良を庇うように、一歩前へ出た。


潮風が、やけに冷たい。



「………おい、」


低い声。

まだどこか幼さの残る、声変わり途中みたいな不安定な響き。


──なのに。その奥に潜む殺気だけが、異様なほど鋭かった。


子どもの声じゃない。
もっと、刃物みたいに冷たい何か。


俺はゆっくりと視線を上げる。

そこに立っていたのは、全身を黒で統一した男だった。


夜に溶け込むような漆黒の服。
耳には無数のピアス。

……年齢は、中学生くらいか。


だが、その瞳だけは妙に完成されていた。

感情を削ぎ落としたみたいに無機質で。
不気味なほど静かで。



………まるで、“人を壊すこと”に慣れている目だった。