君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~

♠ Ren


「……俺が、小さい頃からよく来てた場所だ」


言葉を吐き出しながら、バイクのハンドルに軽く体重を預けた。

波打ち際から吹き上がる夜風が、俺の髪を乱暴に揺らしていく。



「天気がいいとさ、星がすげー綺麗に見えんだよ。……ひとりで頭冷やすには、ちょうどいい場所」


最近は、ここにも来てなかった。

“月華”の総長としての顔でもなく、誰かに見せるための偽物の俺でもない。


ただの『高瀬 蓮』に戻れる、数少ない場所。



そんな俺のだけの秘密の場所に、初めて他の奴を連れてきた。




「───どうだ、いい場所だろ?」



少しだけ冗談めかして振り返った………その瞬間だった。

言葉が、喉の奥で止まる。




「─────」

「………由良?」


そこにいたのは、いつもの地味で弱々しい“あいつ”じゃなかった。


夜の浜辺にぽつんと立つ影。

風に煽られて長い髪が乱れ、今にも波の音に飲まれて消えてしまいそうなほど、静かで。



いつもみたいにオタオタと焦るわけでもない。

俺の後ろをキラキラした無垢な瞳で、子犬みたいに必死に追いかけてくるわけでもない。


ただ、そこに立っているだけなのに。

手を伸ばしても届かないくらい──遠く感じた。



世界からその存在だけがぽっかりと切り取られてしまったかのような、圧倒的な孤独を纏う姿に、俺の胸は激しくざわつく。