「っ、由良っ………!!」
私は一歩踏み出し、由良の華奢な首元に両腕を絡ませて、その体を強く抱きしめた。
───さっきとは、違う。
ほんの数分前、カフェで再会した時、由良はすぐに抱き返してくれなかった。
まるで拒絶されたみたいに、冷たく突き放された気がして悲しかったのに。
「……由衣」
驚いたように固まっていた由良の腕が、今度はゆっくりと、私の背中に回される。
壊れ物を扱うみたいに、優しく………だけど、ほどけないように強く。
すっぽりと包み込まれる感覚と同時に、由良のあたたかい体温がじわりと肌に伝わってきた。
男の子にしては少し細いけれど、私の体をすべて受け止めてくれる、確かな背中の厚み。
どこか懐かしくて甘い匂いが、冷え切っていた私の不安をきれいに溶かしていく───。
"たった"一年という短い期間のはずなのに、遠く離れてしまった距離。
裏社会の荒波に揉まれ、お互いに見えない傷を負いながら過ごした、空白の一年間。
その長すぎる距離を少しでも埋めるように、私たちは言葉もなく、ただ互いの体を強く、強く抱きしめ続けた。
───それはまるで、
離れていた時間の寂しさをすべて、お互いの体温で塗りつぶしてしまうみたいに───。
「───逃げられたら、いいのにね」
このまま何もかもを放り出して、二人で。
耳元で甘く囁かれた優しくて悲しい、本気混じりの冗談に、ドクンと、心臓が音を立てる。
由良も、私を求めてくれている。
………そう思うと、嬉しいはずなのに。
───なぜか、脳裏に浮かんだのは、力強くて、どこまでも真っ直ぐな、あの人の瞳。
(蓮、さん…………)
あの人は、所詮任務の駒。
護衛対象の桃華さんに近づくために、利用したのに過ぎない。
───はず、なのに。
『俺が、守ってやる』
あの日見せた力強い笑顔と、さっきの去り際の表情が頭の中をチラついて────
胸に、小さな引っ掛かりを残した。

