君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~



「…………蓮さん?」


小さな声。
風に紛れるくらいの、頼りない呼びかけ。

その一言で、俺は現実に引き戻された。


「……っ」


喉の奥が、わずかに詰まる。

………まずい。
今の顔のまま、こいつの声を聞くな。


このまま由良を見たら、お人好しなコイツのことだ、心配されるにきまってる。
………そんなの、男としてカッコわりぃだろ。



そう脳内で計算し、反射的に呼吸を整え、一拍遅れて視線を前に固定した。


「……何でもねぇ」


自分でも驚くくらい、平坦な声が出た。


「そう、ですか……………」


ぽつりと、まだ解せないような表情をした由良が、小さな声でつぶやいた。

その瞳は、困ったようにゆらゆら揺れていて。



「………行くぞ」


由良の手首を、軽くも強くもない、離すつもりもない程度の力でつかむ。

………ダメだ、せっかく二人きりなのに。



クソ野郎のせいで、気分が台無しだ。


ぎゅっと、モヤモヤする胸を振り払うように、由良の手首をつかむ手に力を入れる。


由良の体温が、手の中にある。
……それだけで、少しだけ呼吸が楽になった。



……これから、親父に対してどう接すればいいのかはわからない。


もしかしたらこのまま一生口を利かないまま人生を終えるのか。
………それとも、今はそうでなくても”血の通った親子”として一度話をした方がいいのか。


正直、親父を前にして平常心でいられるとは思わない。

────だけど。



今は、これでいい。

このまま、コイツと一緒にいられれば………