「…………わかった。お前にも、色々と事情があるんだな」
「…………」
無言でフッと瞼を閉じた由良。
その長い睫毛が影を落とす横顔を、俺は食い入るように見つめた。
……今更だけど、こいつは本当に”女”なんだ。
胸の奥から込み上げてくるこの熱が、ようやく正当な理由を得て身体中を駆け巡る。
………俺は、由良の隠しても隠しきれないその”部分”に、最初から無意識に惹かれていたのか。
男であることを疑いもしていなかったあの日々でさえ、俺の指先や視線は、こいつの奥底に潜む”女”の気配を敏感に感じ取っていた。
だからこそ、あんなにも執着し、あんなにも狂おしいほどに求めてしまったんだろう。
────あの時は、決して許されることのないこの気持ちを、無理やり諦めようとした。
男を好きになった自分に戸惑い、総長としての立場と、制御できない情動の間で、自分を何度も殺した。
けれど、もうその必要はない。
目の前のコイツは”女”で、俺は”男”だ
俺が由良に向ける気持ちは、決しておかしくはない。
背徳感という名の重石が外れ、今までせき止めていた想いがいっぺんに溢れ出していく。
「その代わり、お前の本当の姿を見せてくれよ」
至近距離で見つめると、目の前の長いまつ毛が激しく揺れた。
ソファに押し付けられた彼女の身体が、微かに震えているのが伝わってくる。
男装という鎧を剥がされたお前の、本当の顔。
それがどれほど俺の心を乱すのか、確かめたくて仕方がなかった。
「そ、れは…………」
言いかけた声が途中で揺れる。
迷っているのが分かる。
当たり前だ。
今まで必死に守ってきた“仮面”を、簡単に外せるわけがない。
「いーだろ。もうバレてんだし。……見せてくれなかったら、アイツらにもバラすぞ」
「えっ、蓮さん、さっきは黙ってるって………」
「…………そうだったか?」
意地悪く口角を上げて笑ってみせる。
別に、本気でアイツらにバラすつもりなんて微塵もない。
……というか、誰にも見せたくねぇ。
絶対にバラさねーけど。
ただ、こうして弱みを握ってでも、お前の”真実”に触れたいと思ってしまうくらい、俺は余裕がなくなっていた。
「れ、蓮さんっ………」
困ったように俺を見上げるその声。
それだけで、胸の奥がギュッと締め付けられる。
見たい。お前が隠し続けてきた、その”女”としての姿を。
お前を縛っているすべての嘘を脱ぎ捨てた、真っ新な姿を、俺だけが独占したい────
「ダメか………?」
「────」
ジッと、長い前髪からのぞく瞳を見つめる。
無理強いはしたくない。
けれど、手を離すつもりもなかった。
沈黙の時間が、ひどく長く感じられる。
やがて、由良は観念したように小さく息を吐き、視線を伏せた。
「…………わか、りました。でも……」


