世界はどうして、こんなにも残酷なのだろう。
目の前で震える肩を見つめながら、喉の奥が焼けるような怒りに支配された。
こんなにも透き通った瞳をした奴が、どうして血の匂いのする過去に縛られなきゃならない。
コイツは、なにもしてないだろ。
ただ兄貴を愛して、ここで海を見ていただけだろうに。
神様なんてクソ食らえだ。
世界は、あまりにも不公平すぎる。
"弱肉強食" "優者劣敗" "適者生存"
力がなければ奪われ、弱ければ消される。
そんな、獣じみた理論がまかり通るこの世の中が、俺は反吐が出るほど嫌いだ。
「それで、僕………っ……」
由良の声が、嗚咽に混じって途切れる。
過去の残像に、今にも飲み込まれてしまいそうな背中。
俺は、自分の拳を白くなるほど握りしめ、覚悟を決めた。
「………決めた」
「えっ………?」
今まで俺が上を目指してきた理由。
汚い世界で生き残るために、他人を蹴落としてでも力を手に入れようとしてきた理由。
全部、桃華のためだと思っていた。
親に見捨てられた俺を、あの女(ひと)が命懸けで庇ったから。
……俺みたいなやつなんて、放っておけばよかったのに。
桃華に拾われて、生かされたこの命を。
俺はただ、月華を大きくするためだけに使ってきた。
恩を返すために。
期待に応えるために。
そうやって、“本当の自分”を押し殺してきた。
──けど、今は違う。
気づいてしまった。
もうひとつ、この拳を振るう理由を。
俺はずっと、桃華を最優先にしてきた。
桃華の望む“総長”であろうとしてきた。
だけど、由良と出会ってから。
そんなもの、全部狂わされた。
罪悪感とか。
立場とか。
間違ってるとか。
そんな理屈、どうでもよくなるくらいに。
こいつを見ていると、胸の奥が壊れそうになる。
……由良の、こんな話を聞いた後なら尚更だ。
だから、俺は──


