「え、あ、じゃあ………」
「ほら、呼んでみー?」
裕太さんがニヤニヤしながら顔を近づけてくる。
(……ほんと、この人たちは。)
私は一つ、深呼吸をして、喉に詰まった偽りの壁を飲み込んだ。
「………裕太、李兎、陽人、太晴………蓮、さん………?」
「……おい、なんで俺だけ"さん"付けなんだよ」
私の言葉に反応した蓮さんが露骨に眉を寄せ、不満げな声を上げる。
「え、なんとなく………?」
「ははっ、蓮、怖がられてるー」
「おい、裕太、テメェ………」
騒がしく笑い合う彼らの中心で、私は少しだけ肩の力を抜いた。
……”椎名由良”として。
この歪な日常に、私は今、完全に足を踏み入れた。
"月華"
暴走族、不良集団。
世間が眉をひそめるその名前は、今この瞬間から、私の新しい”居場所”になった。
みんな仲良くて、明るくて………私なんかがいていい場所じゃないけど。
………少しだけ、本当に少しだけ、寂しかった心が満たされた気がした。
私は隣で不機嫌そうに、けれどどこか嬉しそうに裕太とやり合っている蓮さんの横顔を、静かに見つめた。
この温もりが消えてしまうその時まで、今はただ、「由良」としてここにいよう。
────そう、自分に言い聞かせながら。



