「蓮!!!!」
陽人の鋭い叫びが、無秩序なエンジンの咆哮を切り裂いた。
ルームミラーに映る背後の景色──そこには、彼らの自由を縛る無機質な赤色灯が、夜の闇をじわりと侵食し始めていた。
「…………わかってる」
耳を澄ますと、風の音に混じって微かに、けれど確実に近づいてくるサイレンの音。
………警察の登場、か。
「サツは俺たちが撒くから、蓮たちは……っ」
「ああ……由良、下噛むなよ」
陽人たちがしんがりを買って出たのを確認すると、レンさんは迷いなくアクセルを捻り込んだ。
一段と高くなるエキゾーストノート。
身体が置き去りにされるような加速に、私は彼の腰をさらに強く抱え込んだ。
「どこ、向かってるんですかっ……?」
「………あ?」
「こっち、倉庫の方向じゃないですよねっ……」
「…………俺の、お気に入りの場所」
「えっ?」
「………着いてからのお楽しみだ」
私は思わずヘルメットの中で目を見開いた。
後ろには警察が迫っていて、仲間たちが身体を張って道を空けてくれているというのに。
この状況で”お楽しみ”なんて言葉が出てくるなんて………。
「え──────」
たどり着いたのは、喧騒から切り離された静寂の場所。
ヘルメットを脱いだ瞬間、ツンと鼻をつく潮の香りが、肺の奥まで入り込んできた。
ザザッと、音を立てて打ち寄せては離れる波。
月明かりを反射して、銀色の鱗のようにきらめく水面。
その岬の先端に、ぽつんと佇む見覚えのある白い灯台と、古びた小さな小屋。
警察の追跡も、エンジンの轟音も………今は遠い世界の出来事のように思えた。
「ここって──────」


